喘息治療にあたって


 はじめに

喘息は古代からある病気で、世界のどこの国にもある病気です。わが国における喘息の発症頻度は成人で6〜10%小児で11〜14%といわれています。世界では3〜4億人の喘息の患者さんがいるといわれています。
喘息は死亡することもある病気で、2005年にはわが国で約3,200人(2011年:2060人)、世界では256,000人が死亡しています。したがって、世界の健康問題として世界保健機関(WHO)も正しい喘息治療の推進に力を注いでいます。

日本における喘息有症率は下記の通りです。


 日本における喘息有症率(平成15年)
区分 喘息有症率
小児 11〜14%
成人 6〜10%

なお、日本における喘息有症率の変化は、下記の通りです。いずれの国でもほぼ10年ごとに1.5〜2倍程度増加していると報告されています。

区分 1960年代 最近
小児 1%程度 10%以上
成人 1%弱 6〜10%程度
喘息予防・管理ガイドライン2015より


喘息といっても軽症の患者さんから重症の患者さんまであり、それぞれ、症状、治療も異なります。最近では、ある程度治療が確立されて、昔のようにひどい患者さんは非常に少なくなっており、各医療施設においても喘息で入院する患者さんは激減しており、日常生活がそれほど支障がなく送れる病気となっております。
適正な治療をすれば大部分の喘息はコントロール出来るようになりました。ただ、適正な治療がまだ十分理解されていない部分があるのが現状です。そのため、正しい喘息治療を啓蒙するためにこのホームページを開設しました。多くの皆様方にご参考いただければと思います。






喘息治療にあたっての要点


 最初に、喘息治療にあたって、患者さんに
 ぜひ知っておいてもらいたい要点を簡単に
 まとめてみました。

治療にあたっては患者さん喘息に対する正しい理解が最も大切です。

治療にあたっては医師とのパートナーシップが重要です。医療の基本は医師と患者さんがより良い信頼関係にあることです。

喘息は慢性の疾患で、なかなか完治しない病気(とくに成人)です。したがって根気よく治療することが大切です。

小児の喘息と成人の喘息では、経過や治療に違いがあります。

喘息のコントロールは容易になってきました。喘息はなかなか完治しない病気ですが、適切な治療によりコントロールできるようになってきました。

喘息の基本病態は気道の慢性炎症です。

喘息は発作を予防する治療が大切です。喘息は発作がおこって病院に行くのではなく、発作をおこさないように病院に通院する時代になってきました。

発作を予防する中心的な薬は吸入ステロイド薬です。大部分の成人の喘息および中等症以上の小児の喘息の第一選択薬として位置づけられています。

吸入ステロイド薬は通常使用する量でほとんど副作用がありません

吸入ステロイド薬は必要十分量を正しく吸入しないと効果があがりません。

吸入ステロイド薬は規則的に継続して使用することが大切です。

発作を予防する薬にはDSCG(インタール)やロイコトリエン受容体拮抗薬などの抗アレルギー薬も使われます。

自分の判断で治療を中止することは良くありません。調子が良いからと自分の判断で治療を中止したり、薬を減らしたりする患者さんが多くありますが、これは喘息治療にとって好ましいことではありません。

発作止めの吸入器(短時間作用性吸入β2刺激薬:吸入SABA)は発作のときに大変便利ですが、過剰な使用は危険です。1回2吸入で1日3〜4回までです。発作止めの吸入器で効果がないときは、すぐに受診することが大切です。

発作がひどくなったら早めに受診することが大切です。
喘息で死ぬこともあります。わが国では約1,500人が喘息で死亡しています。
喘息は自己管理が重要です。ピークフローメーターによる自己管理をおすすめします。
喘息は早期に治療することが大切です。
喘息といってもごく軽症から重症まであり、患者さんごとに症状にちがいがあり、治療は患者さんごとにちがうというのが一般的です。






喘息の患者さんの思い


長年にわたって喘息治療にたずさわっていますが、病状の経過とともに変化していく喘息の患者さん思いには、どのように対処すれば良いのかと思い悩むことがあります。
基本的には、喘息の病態が慢性の気道炎症であることを理解していただくことなのですが、患者さんにもそれぞれの重症度、体験や経過、性格、生活などがあり、軽いからと受診しなかったり、仕事が忙しいために受診しなかったり、調子が良いと治療を中断したりということがしばしばあります。

そこで、私が日頃感じている「喘息患者さんの思い」をまとめてみました。

● 調子が悪くて発作があるとき

「早く良くなりたい!」「良く効く薬が欲しい」「良くなるならどんな治療でも受けたい」「良くなるならどんな遠い病院でも行く」「喘息を真剣に治療したい」などと思われます。
【解説】
こういうときは患者さんも治療に熱心で、医師も一番治療に取り組みやすいときです。患者さんは治療をしなければならないことを自覚されていますので、
治療も円滑に行なえる時期でもあります。

● 調子が良くて発作が出ないとき
「調子が良いので薬の服用を忘れる」「薬の服用が面倒」「調子が良いから薬は服用しなくても良いのでは?」「調子が良いから病院を受診しなくても良いのでは?」「自分の喘息はひどくないのでは?」「薬の副作用が心配」などと思われることが多いようです。
【解説】
こうなると
円滑な治療が行なえないことがしばしばあります。調子が良いのは吸入ステロイド薬などの治療をしているからで、そのまま継続して治療することが望まれるのですが、自分の判断で治療を中断ないし中止してしまう患者さんがかなりあります。当然のことながら、そのために再び調子が悪くなるということはしばしばあります。調子が良くなると、調子が悪いときに比べて治療にやや不熱心になられてしまうのが現実で、私は喘息治療の難しさはここにあるのではないかと思っています。

● 長期間調子が良いと
「喘息はもう治ったのでは?」「経過が良いから薬は使わなくてもよいのでは?」「薬はやめたほうが良いのでは?」「薬はあまり服用したくない」「自分の判断で薬を中止している」などと思われることがあります。
【解説】
長期間調子が良い状態が続くと、患者さんはこのように思うことが多くなります。したがって、治療は断続的になり、
円滑な治療はなかなか行なえなくなります。もちろん、長期間調子が良ければ治療を中止しても良い場合がありますが、やはり、その判断は医師に相談すべきだと思います。しかし、医師自身が治療を中止しても良いのか判断しかねることが多いのが喘息という病気の特徴でもあります。
最終的には治療をしているから調子が良いのか、治療をしなくても本当に調子が良いのかを判断して継続するか、中止するかを決めると良いのですが、喘息ではこの判断が大変難しいというのが現状で、医師は「中止して悪くなったら・・・」と慎重にならざるを得ない部分があります。いずれにしても、自己判断で治療を中止してしまうのは良くありませんし、患者さんも慎重であるべきだと思います。


● 漠然とした不安
「ステロイドは怖い!」
「吸入薬は怖い!」「薬を長期間服用していても良いのか不安」「喘息は治るのか?」「いつまで治療が必要か?」などと漠然とした不安を患者さんが持たれています。
【解説】
こうした患者さんの思いは当然のことであり、医師はその点を配慮し十分な説明をしなければならないと思います。かつてテレビや新聞などて盛んにステロイド・パッシング報道がされたこともあり、「ステロイドは怖い!」という思いはほぼ全国民が持っている認識でありますので、医師は吸入ステロイド薬の副作用についてくわしく説明せねばなりません。
ちなみに、ここ10年以上、ステロイドパッシング報道は一切されていません。ステロイドの吸入薬、点鼻薬、塗り薬にほとんど副作用がないことが知られるようになったからです。アトピー性皮膚炎でも適切に使用するなら、ステロイドの塗り薬を使用してもいいことが2002年に学会で発表されています。加熱したステロイド・パッシング報道は何だったのかと思いますが、それがいまだに世間の常識のようになっているのですから、非常におかしいこと、恐ろしいこと、怖いことだとと私は思っています。
ただ、
「ステロイドは怖い!」と思っている患者さんに「吸入ステロイド薬はほとんど副作用がなく安全な薬です」ということを説明し、納得してもらうにはかなりのエネルギーが必要となります私自身は一般の人でも「喘息なら吸入ステロイド薬を使ったほうが良い!」というような時代が来ると良いと思っていますが、残念ながら、まだまだそんな状況にはありません。

以上、患者さんの思いを医師の立場から書きましたが、どちらかというと、医師や医療従事者に読んでいただきたいというのが本音です。
なお、ここに書いた「喘息患者さんの思い」は成人喘息で経過が長い患者さんの場合です。


以上のことは
Internationl Review for Asthma:(2004年2月号)という喘息専門誌に「喘息と患者教育−吸入ステロイド薬と患者教育−」というテーマで私が書いた論文の中で、これほど詳しくはありませんが書いております。





喘息治療の目標


喘息治療の目標 (喘息予防・管理ガイドライン2015より)
1. 健常人と変わらない日常生活が送れることができる
2. 非可逆的な気道モデリングへの進展を防ぎ、正常に近い呼吸機能を保つ。
  PEFが予測値の80%以上かつ、PEFの変動が予測値の20%未満。
3. 夜間・早朝を含めた喘息発作の予防。
4. 喘息死の回避
5. 治療薬による副作用発現回避
       ※PEF(ピークフロー)については「喘息の自己管理」のページを参照ください。

非可逆的な気道リモデリングとは、元には戻らない気道リモデリングを言います。気道の炎症が慢性に続くと、気道壁が厚くなったりなど気管支の内腔が狭くなるなどのリモデリングという現象が起きます。この気道リモデリングがおこると気道は慢性に少し狭窄した状態になりますが、これはなかなか元に戻らないばかりか、さらに気道の過敏性を亢進させるといわれ、喘息重症化の原因となります。
喘息管理・治療の目標は、気道炎症を引き起こす因子の回避・除去や薬物療法による炎症の抑制と気道拡張により、気道過敏性と気流制限を軽減ないし寛解することになります。




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