喘息治療の考え方




喘息の基本病態は気道の慢性炎症

空気を吸ったり吐いたりする気道は下図のような構造になっています。吸った息は気管→気管支→細気管支→肺胞と到達します。喘息はこの気道が狭くなる病気ですが、その病態は好酸球性炎症が中枢気道から末梢気道まで起こっていることによるとされています。




喘息では気道の炎症(好酸球性炎症)がおこっており、その結果として気道の過敏性が亢進し、過敏になった気道に刺激(増悪因子)が加わると気道が狭窄して喘息症状が出現します。したがって、(1)気道炎症の抑制、(2)気道の拡張、(3)誘因の除去・回避が治療のポイントになります。ちなみに、気道の炎症は非発作時にも起こっているです。




まずは、喘息の基本病態である気道の炎症について説明します。

気道の炎症とは気道の粘膜に好酸球を中心に肥満細胞、Tリンパ球などの細胞(炎症細胞)が浸潤することをいいます。そして、これらの細胞からヒスタミンロイコトリエン、プロスタグランディンなどの化学物質が放出され、気道の平滑筋が収縮したり、粘膜がむくんだり、粘液の分泌が多くなり、その結果、気道が狭窄して喘息の症状が出現します。
さらに、好酸球から放出される化学物質によって気道の上皮細胞がはがれ、刺激を感じる神経がむきだしになって気道が過敏になります。すなわち、わずかな刺激でも気道が敏感に反応するようになります。これを気道過敏性の亢進といいますが、気道過敏性が亢進するとわずかな刺激にも反応して気道が狭窄するようになります。
また、気道の炎症が慢性的に続くと、気道リモデリング(気道壁が厚くなったりなど気管支の内腔が狭くなるなどの現象)がおこることもわかってきました。この気道リモデリングがおこると気道は慢性に少し狭窄した状態になりますが、これはなかなか元に戻らない(非可逆性)ばかりか、さらに気道の過敏性を亢進させるといわれ、重症化の原因となります。




このように、喘息は気道の炎症(好酸球性炎症)によって気道の狭窄がおこり喘息症状が出現しますが、気道の炎症はほとんどの喘息で慢性的におこっているといわれています。すなわち「喘息の基本病態は気道の慢性炎症である」ということになります。したがって、喘息治療は気道の炎症をおさえることが非常に重要となるわけです。



喘息治療の第一選択薬は吸入ステロイド薬

さて、最初に述べたように喘息治療は(1)気道の炎症 (2)喘息症状 (3)原因・誘因にどのように対処するかということになりますが、その対策・治療をまとめると以下のようになります。

(1) 気道の炎症
吸入
ステロイド薬
← ← ← ← ← ←
気道炎症
の抑制
(2)
喘息症状
気管支
拡張薬
短時間作用性
長時間作用性
発作の治療

症状の
コントロール
全身性
ステロイド薬
発作がひどいときや
重症で不安定な時
(3) 原因・誘因
原因・誘因
の回避
← ← ← ← ← ←
生活環境整備


かつて薬剤による喘息治療は、おこってしまった発作を気管支拡張薬でおさえること(発作の治療)が中心になっていましたが、最近では、気道の炎症をおさえて発作がおこるのを予防すること(予防の治療)が中心になってきています。
気道炎症抑制の治療には吸入ステロイド薬を使用します。吸入ステロイド薬は抗炎症作用が強力で、しかも副作用も少なく、喘息治療の第一選択薬として位置づけられています。
ただし、小児の軽症喘息ではロイコトリエン受容体拮抗薬がかなり効果を発揮することがあるため、吸入ステロイド薬の代わりにロイコトリエン受容体拮抗薬を使う場合があります。もちろん、ロイコトリエン受容体拮抗薬でコントロールが不良の場合は、小児でも吸入ステロイド薬を使用します。
気管支拡張薬は短時間作用型と長時間作用型(または徐放性)がありますが、短時間作用性は発作の治療に使用し、長時間作用性(または徐放性)は症状のコントロールを目的として使用します。
なお、発作がひどいときは気管支拡張薬とともに内服や注射のステロイド薬(全身性ステロイド薬)を使いますが、副作用の問題もありますので短期間にとどめるのが原則です。
原因・誘因を回避することは大変重要ですが、日常生活の中で回避することがなかなか困難なもの(素因・アレルゲン・気象・気道感染・ストレス・大気汚染など)も多く、原因・誘因の回避のみによって喘息を治療することはほとんど不可能です。
したがって、喘息治療では
(1)(2)の薬剤による治療が不可欠となります。
最後に、発作を火事にたとえて復習してみます。火事になってしまったら火を消しますが、大切なことは火事にならないように注意することです。それと同じで、喘息も発作になって治療するのではなく、発作をおこさないように予防するのが大切なのです。そして、その中心的役割を果たすのが吸入ステロイド薬というわけです。





ここで、喘息治療の基本的な考え方をもう一度まとめておきます。


喘息の気道は症状がないときも炎症が起こっていて、過敏になっています。過敏になった気道に何らかの刺激(気道感染、ほこり、煙など)が加わると気道が収縮して発作が出現します。
したがって、長期管理では吸入ステロイド薬で気道の炎症を抑え、必要に応じて長時間作用性β2刺激薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤などを併用して、発作を起こさないようにすることが基本になります。


まとめ

1.  喘息の基本病態は気道の炎症(好酸球炎症)です
2.  気道の炎症は慢性におこっています
3.  気道の炎症から気道過敏性の亢進(気道が少しの刺激にも敏感に
 反応すること)や、気道リモデリング(気道壁が厚くなること)が引き起
 こされます
4.  喘息治療は気道の炎症をおさえることが基本となります
5.  吸入ステロイド薬は抗炎症作用が強力で、しかも、通常の使用量で
 は副作用がほとんどない薬です
6.  喘息治療では吸入ステロイド薬が第一選択薬となります




わが国では吸入ステロイド薬の普及率も理解度もまだまだ!
喘息治療では、世界的に吸入ステロイド薬が第一選択薬と位置づけされていますが、わが国では必ずしも普及していないとうのが現状です。
2000年9〜12月にわが国でグラクソ・スミスクライン社によって実施された大規模な電話アンケート調査(AIRJ)で、吸入ステロイド薬を「使っている」と答えた人は、成人で12%、小児で5%と報告されています。また、吸入ステロイド薬を「理解している」と答えた人は、成人8%、小児4%と報告されています。
この結果を見た私は
「えっ!こんなものなの?それにしてもひどすぎる!」とがく然としました。と同時に「どうして?」という疑問を抱かざるを得ませんでした。

この結果から、「まだまだ多くの患者さんが喘息を正しく理解していない」ということがお分かりいただけると思います。
吸入ステロイド薬を柱にすえたガイドラインがわが国で発表されて18年が過ぎています。「この遅さはいったい何?」というのが私の素直な思いですが、「きちんとした患者教育が行われているのだろうか?」と心配しています。(2011年記載)


国民の認知度が低い吸入ステロイド薬
今春、スギ・ヒノキ科花粉の大量飛散によって当院でも数千人の花粉症の患者さんが受診されましたので、喘息を合併しない花粉症だけの患者さんのほとんどに「喘息で吸入ステロイド薬が第一選択薬であることを知っていますか?」と尋ねたところ、「知ってます」と答えられた患者さんは皆無でした。自分に関係のない病気の、しかも、薬のことですから知らないことは当然のことかもしれませんが、その結果に私はやや愕然としました。
吸入ステロイド薬が成人の喘息治療における第1選択薬として位置付けられるになって10数年が経過し、多くの先生方や喘息の患者さんなどにはある程度吸入ステロイド薬は認知されるようになりました。しかし、多くの国民から「喘息なら吸入ステロイド薬」という声は聞こえてきません。それどころか、「これはステロイドだから・・・使わない方が良いんじゃないの・・・」「副作用が怖いからやめた方がいいんじゃないの・・・」と言われることがあるくらいです。
「ステロイドは怖い!」「ステロイドは悪い!」と国民のすべてが思っているといっても過言ではありませんし、ほとんどの人がステロイド=副作用というような感覚になっているのは事実です。実際、ステロイドの内服や注射では副作用を十分注意しなければなりませんので、「それはまちがっています」とは言えませんが、少なくとも、内服や注射のステロイド薬と吸入ステロイド薬は大きなちがいがあり、両者を同列で語るべきでないことを十分理解していただきたいと願うばかりです(参照:吸入ステロイド薬の副作用)。残念ながら、
「吸入ステロイド薬は副作用は非常に少ない・・・ほとんど問題ない」ということを知っておられる方は非常に少ないのが現実です。
吸入ステロイド薬を中心としたガイドラインが公表されて成人では10数年、小児では2年余が経過しているにもかかわらず、こうした現状であることは、
日本の医師教育や患者教育にも問題があるのではないかと私自身は思っています。
いつの日にか吸入ステロイド薬が多くの国民にも認知されることを願ってやみませんが、まだまだ遠い道のりのような気がします。(2005.4.11)


成人喘息で吸入ステロイド薬は普及してきた
成人喘息治療において第一選択薬として位置づけられている吸入ステロイド薬は2000年以降から普及してきました。その普及は各関係機関や多くの先生方の努力によるところが大きいですが、厚生省が「喘息死ゼロ作戦」を実施したことによって各都道府県ごとに喘息死対策協議会的なものを発足させ、ガイドラインに準じた治療を啓蒙、普及させたことが大きな結果を持たらしたと思われます。私自身は吸入ステロイド薬普及を願って2000年にホームページを開設しました。そして、吸入ステロイド薬が普及していなかったその当時に「このくらいになって欲しい」と思っていたところに今や到達したと感じています。しかし、「その普及はあまりにもゆっくりだった」という思いを強く持っています。現在は成人で喘息と診断して吸入ステロイド薬を使わない先生はほとんどいないとほどになりました。吸入ステロイド薬が受け入れられなかった時代とは隔世の感があり、とても嬉しく思っています。(2016.2.10)


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