吸入ステロイド薬の副作用




吸入ステロイド薬は非常に副作用の少ない薬です!

吸入ステロイド薬の安全性

吸入ステロイド薬は、喘息の基本病態である気道の炎症をおさえる効果が強力で、副作用が少ないことから世界的に喘息治療の第一選択薬として位置づけられています。
ステロイドということで使用することに心配を感じている患者さんが少なからずあると思いますが、吸入ステロイド薬は長期に使用していても、経口ステロイド薬のように全身的副作用の心配はありません。(高用量を長期間使用する場合は注意が必要ですが、一般に高用量を長期間使用することはほとんどありません)

吸入ステロイド薬が全身的副作用の少ない理由
 薬を直接肺および気道に投与するため、吸入する薬の量がごく少量ですむ。
 消化管や肺から吸収された薬の大部分は、すぐに肝臓で分解される。

経口ステロイド薬の1回使用量はミリグラム単位であるのに対して、吸入ステロイド薬の1回量はマイクログラム(1/1000ミリグラム)単位と、薬は非常に少ない量ですみます。

吸入されたステロイド薬はどうなるのか?


したがって
吸入するステロイドの量が微量ということもあり、血液中に流れるステロイドはごくごく微量ということになります。そのため、大量に使用しない限り、全身的副作用はほとんどないというわけです。

なお、どのくらいの比率が器具や口腔内付着して、どのくらいの比率が消化管に入るかは、吸入手技や吸入する器具、吸入する薬剤によって異なります。
また、肺に吸入された分のほとんどは血液中に流れることになりますが、この大部分も、その後、肝臓に行き、分解されることになります。

肺に吸入される薬の量(肺内到達率)と肝臓での初回通過で不活性化(分解)される割合は、それぞれの薬剤によってちがいます。

薬剤の種類
(商品名)
肺内到達率 肝臓での初回通過で
不活性化(分解)される割合
 フルタイドディスカス 約 15〜17% 99%
 フルタイドロタディスク 約 15〜17% 99%
 フルタイドエアゾール 29% 99%
 パルミコート 38% 約 90%
 アズマネックス 40% 99%
 キュバール 51% 約 80%
 オルベスコ 52
 アドエアディスカス 約 15〜17% 99%
 アドエアエアゾール 30% 99%
 シムビコート 40% 約 90%
 フルティフォーム
 レルベア

肺に吸入されたステロイド薬のごく一部は全身に循環しますが、
肺内到達率が高いほど血液中に流れるステロイド薬の量は高くなると考えられますので、肺内到達率が高いことは効果的には良いと考えられますが、全身への影響を考慮すると少し注意する必要があるのではないかとも考えられます。
一方、嚥下された吸入ステロイド薬においては、
肝臓での初回通過で不活性化(分解)される割合が高いほど薬が全身に循環する率は低くなりますので、全身への影響が少ないと考えられます。
低用量〜中用量の使用であれば、ほとんどこのようなことは問題にならないのではないかと思いますが、高用量の使用ではこういうことを考える必要があると思います。




私の使用経験から

問題となる副作用があった患者さんはありません!

私は過去38年にわたって吸入ステロイド薬を使用していますが、その多くが通常使用量(高用量使用は外来のみということもあってわずか1〜2%です)ということもあり、とくに問題となるような全身的副作用があった患者さんはありません。したがって、吸入ステロイド薬は非常に安全性の高い治療薬であると思っています。

私自身は
  副作用をおそれて吸入ステロイド薬を使用しないため喘息のコント
   ロールが不良になっていること。
  吸入ステロイド薬を減らして使用しているため喘息のコントロール
   が不良になっていること。

 
吸入ステロイド薬を使用しないために発作がコントロールできず、
   全身性のステロイド薬(内服・注射)をよく使うこと

などのほうが問題ではないかと思っています。

喘息の治療薬にはいろいろなものがありますが、ステロイドということもあり、当初は不安を持っていましたが、振り返って見ると38年間の私の経験で、すべての喘息治療薬で最も副作用が少なかった薬は吸入ステロイド薬です。



副作用のまとめ

通常使用量で全身的副作用はまず心配ありません!

局所的副作用 全身的副作用
1. 嗄声(声がれ)
2. 口内乾燥
3. カンジダ症(口腔・咽頭・喉頭・食道)
4. 咽頭刺激症状
5.
6. その他
1. 副腎皮質機能の抑制
2. 骨代謝への影響
3. 小児の発育遅延
4. 白内障
5. 紫斑及び皮膚の菲薄化
6. その他(月経異常、糖代謝など)
吸入直後のうがいとスペーサーの使用でほとんどは防止できます。
ただし、嗄声はスペーサーの使用である程度改善されますが、うがいをしてもほとんど防止できません。
通常の使用量ではほとんど認められません。高用量を長期に使用するとき問題になることがある可能性があります。



全身的副作用について

全身的副作用は通常使用する量ではほとんど問題ないと考えられますが、高用量を長期間使用する場合は、全身的副作用に留意する必要があると思います。
高用量を長期間使用した場合、吸入ステロイドによる全身的副作用が出現する可能性もありますので、併用によりステロイドの減量が可能になると言われる
長時間作用型β2刺激薬(セレベント)やロイコトリエン拮抗薬(オノン、シングレアなど)を積極的に使用して、ステロイドの減量に努めるべきと考えます。
個人差もありますので大変難しい問題ですが、私自身は、成人でフルタイド、オルべスコ、キュバール、アズマネックス、で400μg/日(アルデシン、べコタイドで800μg/日)以内なら、長期間使用してもほとんど問題なしと考えています。なお、パルミコートについて800μg/日以内なら長期間使用してもほとんど問題なしと私は考えています。
(高用量とは、一般に成人では、パルミコートで1000μg/日以上、フルタイド、キュバールで500μg/日以上をいいます。)
吸入ステロイド薬と小児の発育遅延について問題となっていましたが、現在は、一時的に成長へのわずかな影響が見られても、長期的な成長(最終身長)に影響を与えないという結論に達しています。

Bisgaard H らは1-3歳児の幼児を対象として、フルチカゾン(100μg1日2回、ベビーへラー<以前使用していたベビー用スペーサー>で投与、フルチカゾン=フルタイド)およびDSCG(インタール)を投与し、1年間にわたって成長抑制を観察し、成長率は同等であったことを2004年に報告しています。

骨代謝への影響や白内障についても、低〜中用量の吸入ステロイド薬ではほとんど問題ないとされています。しかし、高用量の長期使用では留意する必要があると思われます。
私のところでは、20年以上の使用者、10年以上の使用者が多数ありますが、吸入ステロイド薬の全身的副作用がとくに問題になったことはありません。したがって、全身的副作用のために吸入ステロイド薬を中止した患者さんはありません。
吸入ステロイド薬の全身への作用と思われたのは、月経異常、好酸球生胃炎、発疹で、いずれも、薬剤の変更や減量で改善しており、現在も吸入ステロイド薬を使用し続けています。
いずれにしても、高用量を長期に使用しない限り全身的副作用はほとんど問題ないと思います。吸入ステロイド薬を増量するよりも、長時間作用型β2刺激薬(セレベント)やロイコトリエン拮抗薬(オノン、シングレアなど)を併用した方が効果があるという報告もあり、むやみに高用量を長期に使用すべきではないと考えます。


局所的副作用について

吸入ステロイド薬による局所的副作用で問題になるのは、嗄声とカンジダ症ではないかと思います。そこで、嗄声とカンジダ症について私の使用経験を中心に述べたいと思います。
吸入ステロイド薬(とくにフルタイド)の局所的副作用で最も問題になるのは、うがいをしていても防止できない嗄声ですが、嗄声は吸入したステロイドが喉頭筋へ付着することによるステロイド筋症が原因で引き起こされますが、まれに喉頭のカンジダ症によっても起こることがあります。吸入ステロイド薬による嗄声は、そのまま続けていても重大な障害を起こすわけではありません。また、中止すると速やかに改善しますが、中止すると喘息のコントロールが不良になりますので、多くは薬の変更や減量などで対処します。
吸入ステロイド薬による嗄声などの局所的副作用は一般に高齢、ドライパウダー製剤使用、高用量使用、吸入手技不良などの患者さんに多く、小児では非常に少ないという印象を持っています。
なお、ドライパウダー製剤でもフルタイドロタディスクおよびディスカス、合剤のアドエアディスカスでは嗄声などの局所的副作用の出現率はやや多く、パルミコート、シムビコートではかなり少なく、アズマネックスはその中間ではないかと思います。

当院において年齢別の嗄声出現頻度をフルタイドロタディスクまたはフルタイドディスカス使用例で調査しましたが、0-15歳:0%、16-29歳:1.4%、30-39歳:3.0%、40-49歳:10.0%、50-59歳:12.3%、60-69歳:20.1%、70歳以上:25.6%と、明らかに加齢とともに嗄声の出現頻度が高くなるという結果を得ました。

また、同じくフルタイドフルタイドロタディスクまたはフルタイドディスカス使用例で用量別の嗄声の出現頻度を調査しましたが、100μg/日:0%、200μg/日:6.9%、400μg/日:14.9%、600μg/日:36.4%、800μg/日:50.0%と、用量が増えるにしたがって嗄声の出現頻度が増えるという明らかな用量依存が認められました。


2002年10月、当院では、フルタイドロタディスクからフルタイドディスカスあるいはパルミコートへの変更にあたって、局所的副作用に対するくわしい聞き取り調査を行いましたが、やはり、フルタイドロタディスクによる嗄声は多く、軽い人を含めると12.6%という結果でした。
フルタイドロタディスクで嗄声があった36名について、フルタイドディスカスに変更したところ、8名(22.2%)が消失、13名(36.1%)が改善しております。
フルタイドディスカスで嗄声があった25名について、パルミコートに変更したところ、13名(52.0%)が消失、11名(44.0%)が改善しております
フルタイドディスカスでも、パルミコートでも嗄声があった患者さんでは、キュバール、オルベスコまたはフルタイドエアゾールに変更することによりほとんど消失ないし改善しております。
私の印象ですが、エアゾール製剤は全般にドライパウダー製剤よりも局所的副作用は少ないようです。その理由は、エアゾール製剤ではスペーサーを使用するため、大きな粒子が吸入されないからと考えられます。いずれにしても、エアゾル製剤は局所に優しい薬とえると思います。
すなわち、嗄声はフルタイドロタディスク>フルタイドディスカス・アドエアディスカス>アズマネックス>パルミコート>キュバール・オルベスコ≧フルティフォーム、フルタイドエアーというのが私の印象です。

なお、嗄声はうがいを十分にしても改善されません
吸入ステロイド薬がさらに普及するようになれば、「喘息は良くなったけど声がかれる」という患者さんが増え、今後、嗄声は少し問題になってくるのではないかと思います。
フルタイドディスカス、アズマネックスではあまり強く吸いすぎると嗄声が出現することがあるようです。アズマネックスは強く吸うと嗄声が出現しやすくなるようですが、アズマネックスは強く吸わなくても十分吸入できますので、強く吸いすぎないように指導します。
うがいを忘れたり、使用量が多い場合などに口腔カンジタ症が見られることがありますので、使用後(使用直後)には必ずうがいをすることが大切となります。
口腔カンジダ症はステロイドの沈着によって口腔内にカンジダによる白斑が生じるものですが、ほとんどは吸入直後のうがいで防げると思います。うがいをしていても咽頭培養でカンジダが検出される場合もあることが報告されていますので、丁寧なうがいをおすすめします。
まれなことですが、口腔以外にも
咽頭カンジダ症、喉頭カンジダ症、食道カンジダ症が見られることがあります。しかし、これらはうがいでは防ぐことはできませんので、薬剤の変更、減量などの対処が必要となります。ひどい場合、抗真菌薬を服用せねばならないこともあり、私自身も数名の患者さんに投与したことがあります。
なお、食道カンジダ症では食前の吸入が有効のようです。
その他では口内乾燥、舌のあれ、のどの痛み・異和感が見られることもあります。
  


局所的副作用の対処法
 
   1. 吸入直後のうがいを徹底する
   2. 
エアゾール製剤は必要に応じてスペーサーを使用する
   3. 薬剤を変更する
    (例)
    ・フルタイドロタディスク → フルタイドディスカス、パルミコートなど
    ・フルタイドディスカス → パルミコート、キュバール、フルタイドエアゾール
    ・パルミコート → キュバール、フルタイドエアゾール
    ・キュバール → フルタイドエアゾール
    ・フルタイドエアゾール → キュバール など

    ・アドエアディスカス→アドエアエアゾール、フルティフォーム
    ・シムビコート→アドエアエアゾール、フルティフォーム
    ・レルベア→アドエアエアゾール、フルティフォーム

 
   ※これは、私の経験から消失または改善見られた例を挙げたものです
      が、スペーサーを使用して吸入するエアゾール製剤はドライパウダー
      製剤より局所的副作用は少ないようです。

   4. 
吸入ステロイド薬の使用量を減らす
   5. ドライパウダー製剤をあまり強く吸いすぎない
   6. カンジダ症がひどいときは抗真菌薬(アンホテリシンB希釈液)でうがい
     をする.必要があれば抗真菌薬を内服する
   7. 吸入回数を減らす。(カンジダ症がある場合)
   8. 正しく吸入する
   9. のどの安静(嗄声がある場合)
   10. 食前に吸入する(食道カンジダ症)


    吸入ステロイド薬による局所的副作用のほとんどは対応可能と考えます。







妊娠と吸入ステロイド薬


「妊娠中に吸入ステロイド薬を使用していても良いのか?」と心配される人は多いと思いますが、「まず問題なし」と考えます。
実際、私自身は38年にわたって妊娠中の喘息患者さんの多くに吸入ステロイド薬を使用してきましたが、現在まで、催奇性など問題があった人は一人もありません。
また、吸入ステロイド薬(パルミコート)を使用した2000例以上の患者さんの催奇形性を調査したところ、一般の妊婦の催奇形性の発生率と同程度であったという報告もあります。
妊娠中に著しい発作が起こると、
胎児に悪影響を及ぼす可能性もありますので、喘息がコントロールされていない場合は、積極的に吸入ステロイド薬を使用してコントロールすることが大切だと思います。
喘息の調子が悪いのに、心配のあまり吸入ステロイド薬を自分の判断で中止してしまう人がありますが、それは良いこととはいえません。こういうときは、必ず主治医に相談して下さい。
なお、抗アレルギー薬やロイコトリエン拮抗薬は妊娠中は原則的に禁忌となっていますし、全身性ステロイド薬の長期使用には問題がありますが、気管支拡張薬を必要に応じて使うことはほとんど問題はないと思います。
いずれにしても、妊娠中の喘息治療薬の使用については、喘息を診察してもらっている主治医によく相談されることが大切です。

※吸入ステロイド薬は、妊婦でもほとんど問題ない薬ですから、男性が吸入ステ
  ロイ ド薬を使用
していても、産まれてくる子供さんにまったく影響はありません。


妊娠と喘息治療薬については、妊娠と喘息治療薬にくわしく書きましたのでご参照ください。




全身性ステロイド薬の副作用

多くの患者さんは「ステロイドは副作用が怖い!」ということは良く知っていますが、それではどんな副作用があるかということになると、具体的にはあまり知らないというのが現状です。
ステロイドの副作用で問題になるのは、内服や注射で使う全身性ステロイド薬です。
そこで、全身性ステロイド薬の副作用を列挙しました。

           

          ここに列挙したのは
吸入ステロイド薬の副作用ではありません!

1) 重大な副作用
1) 感染症の誘発、感染症の増悪
2) 副腎機能不全
3) 糖尿病
4) 消化性潰瘍、膵炎
5) 精神変調、うつ状態、痙攣
6) 骨粗鬆症、大腿骨および上腕骨などの骨頭無菌性壊死
7) 緑内障、白内障
8) 血栓症
2) その他の副作用
1) 内分泌 月経異常など
2) 消化器 下痢、嘔吐、胃痛、胸やけなど
3) 精神神経系 多幸症、不眠,頭痛、めまいなど
4) 筋・骨格 ステロイド筋症、筋肉痛、関節痛など
5) 脂質・蛋白代謝系 高脂血症肥満、満月様顔貌、野牛肩など
6) 体液・電解質 浮腫、血圧上昇、アルカローシスなど
7) 網膜障害、眼球突出
8) 血液 白血球増タなど
9) 皮膚 皮膚線条皮膚萎縮紫斑、ニキビ、多毛など
10) 過敏症 発疹
11) その他 成長障害(小児)、発熱、疲労感、体重増加など


ここではほぼすべての副作用を列記しましたが、使用すると必ず出るというわけではありません。なお、ブルーは頻度が多いと考えられているものです。
全身性ステロイド薬の副作用は多くの量、
長期間の使用で問題になりますが、短期間の使用であればほとんど問題ないとされています。
喘息の悪いときにしばしば全身性ステロイド薬を使うことがありますが、短期間にとどめるのが原則です。決して安易に使用する薬ではなく、、必要最小限にとどめるのが原則です。
重症の患者さんでは内服のステロイドを継続して使うこともあり、とくに、全身性のステロイド持続的に必要なことをステロイド依存性といいます。
全身性ステロイド薬を長期に使用していて中止または減量する場合、主治医の先生の指示に従うことが大切です。
なお、吸入ステロイド薬はこれらの副作用がほとんどないのが特徴です。
したがって、必要十分な量の吸入ステロイド薬を規則的に使用して、ひどい発作を予防することが大きなポイントとなるわけです。
ステロイドということで、吸入ステロイド薬と全身性ステロイド薬(内服・注射)を同じに考えないで下さい。


薬の副作用については、医師から細かい説明がなかなか受けられないのが現状です。その原因の一つとして、患者さんがそれを知ると薬を服用することに必要以上に不安を抱いてしまったり、神経質になってしまって、治療が円滑に行えないうことが挙げられます。
薬で副作用のない薬はありません。ちなみに、風邪薬や胃薬でも多くの副作用が記載それています。したがって、薬は少ない方がより安全なわけで、
必要最小限ということが原則となります。しかし、日本の多くの医療機関では多くの薬を出すのが現状です。勿論、医師は安全性を考えて投与しているわけですが、やはり少ない方が安全と言えます。
喘息の場合、あれこれ何種類もの薬を服用するのではなく、本当に適切で、有効なものだけを服用するのが望ましいと思います。
たとえば、一定期間以上喘息の調子が悪いのに吸入ステロイド薬を投与しないで、いろいろな薬を何種類も併用して治療している場合がありますが、最も重要な吸入ステロイド薬を使用しないのは大いに問題ありです。
吸入ステロイド薬の重要性は喘息治療全体の80%以上を占めるといっても過言ではないと思います。
吸入ステロイド薬は全身性ステロイド薬とちがって、高用量(一般に重症例を除いて高用量は使いません)を長期に使用しない限りほとんど副作用はありませんので、安心して使われて良いと思います。

●副腎皮質機能抑制について

副腎は腎臓の上にある小さな臓器で、副腎皮質ホルモン(ステロイド)など人間にとって重要なホルモンを分泌します。ステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)は、副腎から分泌される副腎皮質ホルモンを化学的に合成したものです。
全身性ステロイド薬(内服、注射)は重症の喘息や喘息発作が著しいときに使用しますが、ステロイド薬を一定期間使用していると、副腎皮質からのホルモンの分泌が低下します。それを副腎皮質機能抑制といいます。そして、長期間大量に服用しているとさらに抑制は強くなり、副腎皮質機能不全を引き起こすこともあります。
全身性ステロイド薬を長期間大量に服用していると、副腎皮質はまったくホルモンを分泌しない状態になり、萎縮することがあります。そんなとき、いままで服用していた全身性ステロイド薬を急に中止すると、機能不全におちいった副腎がホルモンを分泌しないために、何らかのきっかけでショック症状を来たすことが予測され、全身性ステロイド薬を連続して長期に使用している患者さんでは、中止には十分な注意を要するわけです。
全身性ステロイド薬を大量かつ長期に使用すれば、当然のことながら副腎皮質機能抑制はおこり得ます。そのため、
喘息では短期間の使用にどめることを原則となっています。
これで、全身性ステロイド薬を安易に長期間服用すべきではないことが分かりいただけたと思います。

なお、
吸入ステロイド薬では、こうした副腎皮質機能抑制はほとんど起こらないと言われていますが、最近、高用量の吸入ステロイド薬を長期間使用すれば副腎皮質機能抑制が起こり得ることが分かってきました。そのため、高用量使用では長時間作用型吸入β2刺激薬(セレベント)やロイコトリエン拮抗薬(オノン、シングレアなど)などを併用して、吸入ステロイド薬を減量することの重要性が言われるようになっています。
より効果的な使用方法として最初に高用量の吸入ステロイド薬を使用する場合がありますが、当然のことながら、経過が良くなればステップダウン(減量)するのが原則です。
経過が不良で、どうしても全身性ステロイド薬を服用しなければならない患者さんや高用量を長期間続けていないと病状が不安定な患者さんは、必ず、主治医の先生の指示に従って服用しなくてはなりません。


副腎皮質機能抑制は尿中排泄コーチゾールや血液中コーチゾールなどの測定によって調べることができますが、一般にそこまで検査することはほとんどありません。




ステロイド恐怖症のカベ
わが国では、ほぼすべての人が「ステロイドは怖い!」という認識を持っており、「ステロイドは副作用が怖い!」というのが一般常識とさえなっていますが、これをステロイド恐怖症といいます。患者さんに良く聞いてみると「なぜ怖いのかという理由」を知っている人はほとんどありませんが、「とにかく副作用が怖い!」ということだけは良く知っています。
同じように、医師もまたステロイド対しては副作用の懸念を常に抱いています。
そんなこともあって、わが国で吸入ステロイド薬はなかなか普及していません。
私からすれば、吸入ステロイド薬はほとんど副作用がないというのが常識なのですが、一般の人にはステロイドということでなかなか受け入れてもらえないのが現実です。ましてや、それを吸入するというのですから。
1993年頃から吸入ステロイド薬の普及に努めてきた私にとって、ステロイド恐怖症は大きなカベとして立ちはだかりました。それは、
ステロイド恐怖症との戦いといっても過言ではありませんでした。
「吸入ステロイド薬はほとんど副作用がない!」ということを十分説明しても、その不安を取り除くのはなかなか困難でした。むしろ、それを警戒されたこともありました。
最近では、かなり吸入ステロイド薬は受け入れられるようになりましたが、医師を含めてまだまだ副作用に対する懸念を抱いている人は少なくありません。すなわち、
「わが国で吸入ステロイド薬はまだまだ十分認知されていない!」というのが現状ではないかと思います。
ともあれ、せめて
「吸入ステロイド薬はステロイド恐怖症の対象にはならない薬」ということを多くの人に認識してもらいたいというのが私の願いです。





医師は「これは吸入ステロイド薬です!」と言うべき!
吸入ステロイド薬を出すとき、医師は患者さんに吸入ステロイド薬であることを言わない場合があります。多くは、患者さんが副作用を心配するからとの配慮から言わないのだと思いますが、私は、吸入ステロイド薬ということをハッキリ言うべきだと思います。
そのためには説明が必要となりますが、その説明によって患者さんは喘息に対する大きな知識を得るわけですから、非常に重要なことだと思います。
それから、今回発売されたパルミコートとキュバールでは吸入器に「ドライパウダー吸入ステロイド薬」と明示されていますが、これは非常に良いことだと思います。あらゆるメーカーでそういった表示をしてもらえると、広く吸入ステロイド薬が認知されていくのではないかと考えます。
(2003年3月に発売されたフルタイドエアーでも「吸入ステロイド喘息治療剤」と明示されています)
わが国では根強いステロイド恐怖症があり、それが吸入ステロイド薬普及の大きなカベになっていますが、とくに問題となるような副作用はほとんどないことを説明すれば、患者さんは納得、理解すると考えます。
吸入ステロイド薬を使っていながら、それが吸入ステロイド薬であることを知らないでいる患者さんがかなりあります。そのため、他の薬はきちんと服用しているのに吸入ステロイド薬は真面目にやっていない場合がよくあります。これでは、喘息のコントロールも良くなりません。
やはり、患者さんに
「これは吸入ステロイド薬です!」ということをハッキリ言って、その重要性と安全性を十分説明すべきだと思います。





「吸入ステロイド薬の副作用」ということに思う

「ステロイド」と聞けばほとんどの人が「副作用」というイメージを思い浮かべます。かなり昔にステロイドの内服薬を長期に使用して副作用が大きな問題になったことがあります。それ以来、医師も患者も「ステロイドは怖い薬」という認識を持つようになりました。そして、アトピー性皮膚炎の塗り薬ではマスコミがセンセーショナルにステロイドの怖さを取り上げ、誰もが「ステロイドの怖さ」をより強く認識するようになりました。そして、その認識は今も変わりありません。
では、「ステロイドは本当に怖いのか」ということになりますが、それは、
剤型、ステロイドの種類、使用量、使用期間などと密接に関係します。すなわち、内服薬や注射薬は全身に投与されますので副作用は常に考えておかねばなりません。少ない量を短期間(1週間以内)であればそれほど問題ありませんが、多い量を長期に使用すれば全身へ影響があり、感染症の誘発・増悪、副腎皮質機能低下、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死、糖尿病、白内障などの副作用が問題になります。しかし、喘息で使う吸入ステロイド薬や花粉症やアレルギー性鼻炎で使うステロイド点鼻薬、アトピー性皮膚炎で使うステロイドの塗り薬は、局所のみに使用するので大量に使用しない限り全身への影響はほとんどありません。
ですから、全身性ステロイド薬(内服薬や注射薬)と局所性ステロイド薬(吸入薬・点鼻薬、塗布薬)はきちんと区別されなければなりません。しかし、そういう区別なしに「ステロイド=副作用」と思われる患者さんがほとんどなのが現状です。最近、あれだけ騒ぎ立てていたマスコミがステロイドの副作用を取り上げなくなりました。その理由はアトピー性皮膚炎のステロイドの塗り薬は適正に使用していれば問題ないという認識が確立されたことと、吸入ステロイド薬やステロイド点鼻薬が通常使用量ではほとんど全身への影響ないと認識されるようになったからだと考えています
初めて吸入ステロイド薬を使用する人に薬の説明をしますが、ほとんどの方が「えっ、ステロイドですか!」という顔をされます。そこで「なぜ副作用がないか」ということを必ず説明しますが、多くの方はそれである程度納得されますが、それでも抵抗感のある方や釈然としないという方はかなりあります。
このあたりが、わが国で吸入ステロイド薬が普及しない一因(世界の先進国で一番遅れているといわれています)になっていると思います。実際、最近、喘息ではない患者さんに数千人に「喘息では吸入ステロイド薬が第一選択であることを知っていますか?」ということを尋ねたら、ほとんどの人はそのことを知りませんでした。残念ながら吸入ステロイド薬は国民的理解が得られておらず、多くの国民に認知されていないのが現状なのです。
喘息における吸入ステロイド薬の位置づけは医師もかなり認識するようにはなっていますが、まだまだというのが私の認識です。
私が吸入ステロイド薬を使用するようになって28年が経過しますが、このことは私にとって大きな壁でしたが、その壁はまだまだ大きなものであることを痛感しています。
少なくとも、通常使用量であれば長期に使用してもほとんど問題ないというのが、長く吸入ステロイド薬を使ってきた私の結論なのですが、なかなか簡単に理解してもらえません。それは、日本における吸入ステロイド薬の歴史が浅いことと大いに関係があるようです。1993年にガイドラインが公表されましたが、多くの医師が積極的には使用しませんでした。かなり普及するようになったのは2000年頃からでまだまだ歴史が浅いのです。
私が28年前から吸入ステロイド薬を使用したのは、吸入ステロイド薬が最も効果があって、副作用もほとんどなかったからです。それだけ、他の薬は効果がなかったということですが、その結論はすべて患者さんから学んだものでした。
より多くの医師が吸入ステロイド薬を積極的に使用するようになれば、患者さんのコントロールは良くなり、喘息死も激減するのではないかと私は考えています。
もちろん、吸入ステロイド薬を使用してもコントロール不良な患者さんがいますが、そのあたりが今後の喘息治療の課題だと思います。(2006.10.8)



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